プロローグ

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プロローグ

 おぎゃあ――と、赤ん坊の泣き声が響いた。 「おおっ、生まれたか!」  顎髭の生えた金髪の男が、豪華な装飾が施された椅子から勢いよく立ち上がる。そして、赤ん坊の声がした部屋へと走る。  扉の前には、笑顔を浮かべる高齢の女性が立っていた。 「旦那様、おめでとうございます」  女性は目尻に涙を浮かべ、金髪の男にそう告げる。男は何も言わず、しかし、目を見開いてその言葉を受け入れた。  震える手で扉を開ければ、目の前には愛しい者達の姿――。 「あなた……」  涙ながらに声を発する女性の頬は紅潮していた。髪も乱れ、やつれているにも関わらず、男は女性を美しいと思った。  その若く美しい女性の腕の中で、スヤスヤと眠る小さな存在に目を向ける。赤ん坊は、銀の髪を持つ男の子だった。  男はすぐに名前を考えた。 「サエラ、レンリというのはどうだ?」  サエラと呼ばれた女は、疲れた、しかし喜びに満ちている表情で頷く。 「ええ、いい名前だわ。レンリ――」  女が名前を呼ぶと、レンリはパチリと目を開いた。熟れた林檎のように赤い瞳が、ジッと男の姿を捉える。そして、生まれたばかりだというのに、ニコニコと機嫌良さげに笑った。 「まぁっ、この子笑ったわ!」 「レンリ、お前は天才だな!」  二人はレンリの一挙一動に騒いだ。  この時のレンリは、幸せな、理想的な家族の一員だったのだ。
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