ta-dah! ~披露~

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 おずおずと壱成の隣に立ったサトリは。  ゲスト達の『何者だ』と言いたげな好奇の視線に耐えるのに必死で、震えそうになる膝を硬直させた。 『――しっかりしろよ』 異変に気付いた壱成が、背中に手を添えてくれる。 「――『星景写真』という写真のジャンルを皆様はご存知でしょうか」  突然切り出した壱成の意図が読めず。サトリは泳いだ視線を入口近くのアサキに合わせて、何とか平静を装う。 「『風景写真』は空が背景として写ることはありますが、それはあくまで近景の引立て役。対して空が主役の『天文写真』は地上の景色が背景。つまり『星景写真』は、星空と景色のどちらも主役にしたいという願いが込められた、提唱されてまだ四半世紀も経っていない、新しいジャンルです」 サトリはそんな大層な解説を誰かにした覚えは無いし、人前で此処まで流暢に話すことは無理だ。  しかも何故自分が突然壇上で紹介されたのか、未だ全くサトリには理解できて居なかった。 「――さて、オープニングで『新生』カルナバル・パンドラと申し上げましたが、実はまだ、この巣窟は未完です。――皆様。天井をご覧下さい」 ホールのゲスト達の顔が一斉に上を向くが、白いドーム状の天井とシャンデリアがあるのみ。 「――初めはシスティーナ礼拝堂のような天地創造の天井画を配する予定でしたが。小野氏の星景写真に触れて考えを改めました」  サトリが世界中で撮影した星景写真を、天井と360度の壁一面に蛍光塗料を用いて忠実にプリントして、更に四季毎に塗り替えを行うと言う。 「今後のご招待の折には、世界中の星空の下で私のショーをご覧に入れます」 歓声と拍手の波。取材解禁された報道用のカメラのフラッシュが、幾度も二人に向かって焚かれる。 『おい…聞いてないぞ』 驚くサトリの耳に。 「小野ちゃん。――存分に俺を使って名前を売るんだ。ビジネスだよ」 沢山の人に写真を見てもらうのが商売なんでしょ? 「ビジネスって…」 「何、まだ不満?」 「いや…何だか、認めてもらえたって実感が沸かなくて…」 「じゃ――アイダさんに感謝して」 俺だってアイダさんがあんなに真剣にプッシュしなかったら、ここの天井システィーナ礼拝堂にしてたもん。 小野ちゃんの腕が悪ければ流行りは一時。俺が責任を持って廃業させて、アシスタントでこき使ってあげるから。 笑顔でカメラに視線を送りながら。壱成は憎まれ口を叩いた。
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