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ひのテレアナウンサー飛鳥井颯の本日の出勤時間は午後1時。
「お早うございます」
アナウンサー部の自分の席のPCを立ち上げる前に、スタッフから声を掛けられた。
「飛鳥井君、今日のMハリ収録何時?」
「16時半からです」
「よかった。菅沼君の代打。直ぐにニューススタジオに行って貰えるかな」
24時間365日報道専用のCSチャンネル『HNN24/7』は、ひのテレ本社内にスタジオがあることから、系列のアナウンサーとしてヘルプで呼ばれる事がある。
急に体調を崩した担当アナの代わりに、颯は15時から30分ニュースを読むことになった。
元々報道局希望の颯は喜んでスタジオに向かう。
「すぐ衣装合わせして。準備次第テスト行くよ~」
「はい」
「今日は4着。まずは好きなもの選んで下さい」
スタイリストが準備した中から、紺色のスーツを選んだ颯は。
スタジオ内の本番用のデスクに座って、コーヒー片手に原稿とVのチェックを始めた。
トップニュース、社会、経済は順調に読み進め、
「次はカルチャー。早くも今世紀最高の呼び声高いクローズアップマジシャンの話題」
コーヒーを含みながら、嫌な予感がした颯がVに目をやった途端。
「んぐ…――っ!!」
霧吹きでもそんなに広がらない、という程盛大に吹き出した挙句。
慌てて原稿を拭いた手が、コーヒーの残っていたデスクのコップをなぎ倒した。
「熱ッ!あっつ~!!お…小野さん!?」
デスクの端から滝のように流れ落ちたコーヒーが膝の上に。
モニター越しの小野サトリは、何故ホストのような派手な格好で、一壱成の隣に立たされて居るのだ。
颯には、二人の悪魔に囚われたサトリの嘆く表情にしか見えなくて。
『一ヶ月で一体何が!?ああ、小野さんが穢された…』
これまた颯にはセンス最悪にしか見えない悪魔のスタイリスト、アイダアサキに殺意を覚える。
「飛鳥井さんまたスーツ買い取りですか」
スタイリストの歎息。
改めてコーヒーを浴びた自分の哀れなスーツ姿を眺めた颯は。
「紺色だし見えないから…ダメですか」
「――じゃ。証拠Vつけてマニアに売りますよ。次のスーツを買う資金にしますから」
「か…買い取ります!買い取らせて下さいっ!」
「ダメだね飛鳥井君…。まだまだ君はバラエティ卒業は無理だ」
NG集の素材アナウンサーイチだよ、と笑われて。颯は更に二人の悪魔のことが大嫌いになった。
(第二章 了)
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