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張りのあるバリトンの美声が、立王大付属病院の待合室のスピーカーから流れた。
『431番の方、12番診察室へどうぞ』
最近の大病院では名前を伏せて受付番号で呼び出されるということを初めて知って、産まれてこの方風邪すらひかずに育って医師の世話になったことが無い颯は。
危うく自分の番号を聞き逃すところだった。
受付カードの番号が正に431番だということに気付いて。
長椅子から周りが驚くほど勢いよく立ち上がる。
慌てて12番と表示されたドアをノックすると。
「どうぞ」
という、やはり落ち着いたバリトンに誘われるようにノブを回して。
「失礼します!!」
診察室に元気な声で入室した。
「お…お久しぶりです。西海先生」
「――飛鳥井…ミカエル。御前ね。面接だけなら診療時間は避けてくれないか。御前との無駄話の時間を他の患者に割けるだろう」
大学の医学部長で付属病院長ということは。確実に40代は超えているはずなのに。
如何見ても西海教授は30代前半の容姿だ。
細面に涼しげな目元。鼻筋の通った面容は、端正という形容は彼の為にある、と言っても過言ではなかった。
「ウリエル先生が確実に捕まるの、診察室だけじゃないですか」
ウリエル、と呼ばれた西海教授は、長い脚を高く上げて組みなおすと。颯が診察室に入る前に受けたレントゲンや心電図情報の電子カルテを横目で確認しながら。
「バカみたいに丈夫な身体だな――ハイ。ミカエルは頭以外悪いところはありません。健康な人間を診察するほど暇ではないから、とっとと帰れ」
マイクに手を伸ばした西海教授が、「432番の…」と次の患者を呼び出そうとするから。慌ててそれを阻止した颯は。
「ラファエルの事を相談したくて来たんですよ!!」
「ミカエル――御前ね。それを早く言わないか」
見つかったのか、小野サトリ。感触はどうだ?
西海教授はやっと颯と向かい合って話をする気になったらしい。
「早く言えって…先生電話に出てくれないからアポイント取れないし。
――小野さんは悪魔に海外に拉致られるし…」
「え?何だって?」
4大天使を退いたとはいえ、西海教授――ウリエルは3大天使の『先生』なのだ。いい加減な対応に颯は泣きたくなってきた。
「先生ニュース見てないんですか!」
今悪魔に連れられて撮影旅行ですよ!
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