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まだMハリ収録時間には早いけれど、スタッフから、
「飛鳥井さん。新しいスタイリストの方、挨拶にお見えになってますよ?」
「解りました」
この業界は厳しい。一度仕事に穴を開ければ次のチャンスなど無い。
『気の毒だけど、仕方ないよな』
新しいスタイリストが長く続くように祈りながら控え室のドアをノックして開けた颯は。
絶対にこんなトリオは認めない、という三人を部屋の中に見つけて。
『誰か俺の記憶を奪ってくれ』
どんなに願っても無理なことは解りきっているので。
やはり見なかったことにしよう、とドアを閉めて心の平穏を取り戻すために一つ息をつくと。
気をとりなおして元来た廊下を戻ろうとした。
背後からドアの開く音。
「あ!あの…!飛鳥井さん!」
呼びかけたのが彼でさえなければ振り向きはしなかったのに。
困ったようなサトリの声を無視できず振り返ったら。
トーテムポールのように、開いたドアから突き出した3人の顔が縦に並んで颯を見つめていた。
「な…!何なんですか一体!」
一番上にあった首が、にっこりと笑顔で言う。
前回あんな別れ方をしておいて、何故そんな風に笑えるのか。
「俺この番組。専属になっちゃった」
「はぁ!?」
週一回颯ちゃんとオシゴトできるようになったから、よろしくね!
――不意に蘇った唇の感触を掻き消したくて。
「わ…私は認めていませんよ!」
真ん中の首が。
「オイ弄られキャスター飛鳥井!俺に局内で暴れられたくなかったら、今すぐルン君の回の資材映像横流ししろ!」
「――寝言は目を開けて言わないで戴けますか。何ならお相手しますが」
一番下の首がすまなそうに、
「飛鳥井さんゴメン…あの。俺、相談に乗って欲しくて無理矢理アイダちゃんに頼んで連れてきて貰ったんだ。こいつ等迷惑かけたら謝るから」
いつからサトリは二人の悪魔を従えるようになれたのだ?
「小野さん。携帯に連絡くれればよかったのに…」
「アナウンサーって仕事忙しいだろ?」
何時だったら邪魔にならないのか考えてたら連絡とれなくて…。
ゴメン。なんて殊勝なことをサトリから言われて颯が赦さないはずがないのに。
「ああ、飛鳥井みたいなバラエティ班は収録なきゃ暇暇。ニュースみたいに毎日決まった時間に読まないし」
壱成から野次が飛ぶから、折角取り戻した平穏な心が一気にささくれ立った。
「何故そんな知ったような口を利くんですかね」
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