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「おい、颯君。9時だぞ!」
ルンに肩を揺さぶられて強制的に覚醒させられた颯は、
「はぁ~ぁぁあい!!」
今度こそ起きなければならない時間だと解ると、返って身体はだるくなる、と思いながら、小さなベッドで手足をうんと伸ばしてから寝返りを打つ。
「――あ」
目の前にサトリがまだクッションを抱えて身体を丸めるようにして寝ていた。
思わず頬が緩んで。
「ああ。サトリさんって、こう、何ていうか…いちいち幼いコドモみたいに愛らしく見えるよね」
思わず呟くのをルンに聞かれて。
「視点が――おかしいぞ颯君」
あいつ等と云ってる事変らねぇぞ、と指摘されるから。
「え!?…いや、変な意味じゃないよ!!」
慌てて否定する。
「変な意味って何だよ。いいから小野サンも起こせ。メシできてんぞ」
カマスの一夜干し。蜆の味噌汁。鰹節山盛のほうれん草のおひたし。白粥。
次々と小さなキッチンから運ばれてくる皿や椀に。
「こんなに正しい朝御飯。俺久し振りだ…」
折りたたみ式の小さなテーブルの前で、寝ぼけ眼のまま思わず正座したサトリ。
「こんなの全然ダメだろ。どうして小野サン家の冷蔵庫。魚介しか入ってねえんだよ」
野菜ギリギリほうれん草しかなかったぞ!
コメも無いからお粥はノリみたいに薄いぞ!!と折角の料理の腕を振るうには不完全燃焼な状態に、ルンは不服そうに云う。
「ゴハンも酒も、サカナがあれば事足りるから」
基本外食だからコメあんまり食わないし…。
「何か悪いなコノルン…。御前ホント面倒見がいいなぁ」
小さいテーブルに二人分の食器を無理矢理乗せて。
「イイから早く食って仕事行けよ颯君」
ホラ、箸。と最後に手渡されて。二人で受け取る。
「「頂きまーす」」
「何か…」
コノイトさん母ちゃんみたいだ。とサトリがお粥の茶碗を持ちながらぽつりと云うから。
「母ちゃんじゃねぇよ!」
「ゴメン。独りじゃない朝御飯がすっげぇ久し振りで嬉しくてさ」
等と言われてしまっては。怒るわけにも行かず。
「――もういいから、早く食え」
冷めるぞ。とルンは云いながら。
颯が「コドモみたいに可愛い」と言うのが強ち解らなくも無い、と思い直して。
サトリの頭を慈しむように撫でてみた。
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