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「――あの…!ルンさん?!」
まだサトリが歌い始めて間もないはずなのに。もぎ取るように慌ててヘッドホンを脱いだスタッフが、ルンを呼ぶ。
「コレ!聞いてください!!」
早く早く、とヘッドホンを投げそうな勢いで手招きをするから。
もう一つ繋いだヘッドホンを耳に当てたら。
自分の曲を別の誰かが歌っている、という違和感を覚えるかと思ったのに。
――もう此処に君は居ないのに
それでもこの永遠は、ずっと続いていくんだね――
聞こえてきたのは、Bメロ終わりから、サビへと移り変わるところ。
『叙情的で深みがある』
『黒天使の声』
と言われるエフ分の一の声持ち主のルンとは全く違う声質だが。
――ああ。
何て柔らかい…。
伸びやかで優しい、声。
「――凄い…。この人の声って、テノーレ・リリコ・レジェロじゃないですか?」
話しかけるスタッフを手で制して。二人でサトリの声に聞き入る。
テノーレ・リリコ・レジェロ。
男声の高音域の中でも「輝く響き」と言われるパートだ。
曲が終わってから、興奮冷めやらぬ、という感じのスタッフは。
「何者なんですか?アノ人…」
「――何者って。星景写真家だよ」
「セイケイ写真家?――何ですかソレ。勿体無いなぁ…。いい声してるのに」
終わっても指示がないから、困惑したような視線をガラス越しに寄越してくるサトリに。
「俺…面白い事思いついた。――小野サーン」
ちょっといいか?
録音ブースにマイクで話しかけたルンは。
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