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「にゃろっ!」
人々が寝静まった午前3時、瓦作りの民家の屋根上に2つの人影があった。1つは、2本の日本刀を持つ、全身血のような深紅の甲冑に味を包んだ武士。暗闇でよく顔が見えないがまるで骨のようにやけにほりが深かった。
そしてもうひとつは、小柄な少年。両手にはS&Wの拳銃を持っている。ちなみに彼は、一糸まとわぬ姿、つまり素っ裸だった。風呂上りの上気した肌が、春風特有の肌寒い風をもろにくらい見ているだけでも寒いのが分かる。
少年は、端正な顔に皮肉っぽい笑みを浮かべると、両手のS&Wを甲冑武士に向けた。「悪いけど消えてもらうよ、亡霊さん」
ドンッ、ドンッ――!!
語尾と共に、少年はS&Wの引き金をひく。サイレンサのつかない拳銃は、耳を刺すような音と軽い火花を散らして弾丸を放った。それを、人間離れした動きで甲冑武士は叩ききる。
「ちっ…」
少年は、苦々しく舌打ちすれと、隣の家の屋根上へと飛び移った。そのまま再び引き金をひく。
「ふぉ――っ!」
しかし、それも糸も簡単に切り落とされたかと思えば、目も疑いたくなるような脅威の跳躍力で少年に切りかかった。
「マジッ!?」
少年は、とっさに隣の家へと移ることでそれをよける。その時の衝撃で屋根に貼られたソーラーパネルが多少破損したがそんなこと気にしている場合ではない。
「ごめん、修理費送るよ」
いいながら、少年は、再び引き金をひいた。
カチ…。
S&Wから、弾が出ない。代わりに鉄がぶつかり合うような乾いた音がかすかに響いた。
少年は、肝を冷やす思いでS&Wの弾を確認する。すると、中から先のなくなった弾が5つづつ2丁の拳銃からこぼれた。
「あちゃー」
弾切れかと、少年は弾丸が入っているはずの尻のポケットへ手を伸ばす。しかし、手が触れたのはジーンズの固い生地ではなく自分の引き締まった生尻。
思わず癖になってしまいそうな肌触りを手に感じながら少年は、こめかみにツーと冷や汗を流した。
「やっべ…」
眼前には日本刀を振り上げた甲冑武士。少年は、この絶体絶命な状況に思わず笑みを浮かべた。
「どうする、せんせ…」
懐かしい顔を思い出すと、少年は下がどうなっているかも確かめずに屋根から飛び降りた。
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