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『いつでも、女の子を守るためなら、男は正義のヒーローになれんだよ』と、物心ついた時から耳にしていた。警察官の親父がよく言っていた言葉だった。
曰く、何時もはダメダメでもいい。けれど、大切な一人の女の子を守る為なら、男はヒーローであれ。
子供の時分だ。ヒーローなんて言う単語はオレの心をときめかせた。機会さえあれば、改造手術を受けてもヒーローに憧れる年頃なのだから。
しかしながら、オレの親父は、いい父親には程遠かった。暴力を振るうでもないが、いわばだらしない親父だった。
一つ例を挙げよう。確か、あれはクリスマスイブの前日だったはずだ。
五歳の時だった。
サンタの存在を信じるのは、子供の特権だ。時に、知らないと言うのは、幸せな事である。知ってしまったら幻想は壊れるのだ。
当時のオレは、クリスマスにサンタからプレゼントを貰えるのを、心の底から楽しみにしていた。
『ねえ、ママ。サンタさん、ちゃんと来るかなあ?』『良助はいい子にしていたからきっと来るわよー』などと、アットホームな会話を交わしていると。
『サンタ? んなもんいるわけねえだろ、オイ』
椅子に座って日本酒をのんでいた親父が酔っ払った様子で放った一言が、オレの幻想を跡形もなくぶっ壊した。
あまりのショックで、元旦まで塞ぎ込んだ。無理もないだろう。五歳にして既にオレはサンタはいないと言う事を悟らされたのだから。
後に、親父も母さんにボコボコにされてた気がするが、子供の時なので記憶がフワフワしている。
しかし、暫くして、オレに転機が訪れた。否、飛び込んで来た──と言うべきだろう。転機といつものは、いつも突然にやって来る。
7月6日。
親父が、死んだ。
線香の匂いが漂う、和室の部屋。幼いながらも、回りの会話から、親父は、とある殺人事件の捜査中に死んだ事が分かった。
拳銃を持った犯人と揉み合いになったはずみで、運悪く、引き金が引かれてしまい――弾丸が、親父の体を貫いたらしい。
親父は直ぐに救急車で病院へと運ばれた。しかし、その甲斐なく、親父は出血多量でこの世を去ったのだ。
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