Ⅰ 出会い

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「―――……………ふう」 出版社からの帰り道。 作家の天音 都槻(トツキ)こと、雨宮 詩津(アマミヤ シヅ)は傘を差し、独りで歩道を歩いていた。 時折、溜め息を漏らしながら。 ふっと、車道を見れば、雨に打たれる車が通り過ぎていく。 水たまりの水を歩道に跳ね上げたり、ワイパーで必死に雨をどけようとしたり。 それぞれ、個々の音を立てながら。 「………大っ嫌い」 跳ねる音も、打つ音も、嫌なことを勝手に思い出させる。 忘れようとしても、忘れられないことばかり。 嫌なのに。 「……はあ、またか」 雨音を聞く度に、思い出してしまう自分に、一番嫌悪感を抱いてしまう。 執筆した本も、売れないでいる。 ダメだな。このままの僕だと。 変わらなきゃいけないと思うが、変わらない。 何も、変わることの無いまま生きて終わるかもしれないな。 「あ、もうこんな時間だ。帰らないと」 不快な雨音を背にして、自宅に急ぐことにした。 いつも通りの日常が、今日崩れるとは、僕は想像もしなかった。 自宅に着いて、傘を畳み、玄関の引き戸を引いた。 ガラガラ 「ただい……………ま?」 あれ? 玄関口を見ると、男物の靴が有る中に、一足だけ、自分が買った記憶の無い靴がある。 それも、女性用の。 誰か来たのかな……………うん? おかしい 鍵って開けたっけ? !!? .
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