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誰かいるのか?
靴を脱ぎ捨て、なぜか明かりの灯されている居間に向かう。
障子の前に立ち、ゴクリと唾を飲む。
落ち着け、多分あの靴からして相手は女性だ。
それも、小柄な。
女性相手に暴力はいけないが、追い出すことは出来るはずだ。
がっ
―――バンッ
勢いよく障子を開け過ぎたせいで、すごい音が響き渡った。
中を見渡すと、こちらを向いて、ひとりの女性がお茶を飲んでいた。
二十代ぐらいだろうか。結構顔は若く、可愛らしかった。畳まで伸びる蜂蜜色の髪は緩やかなウェーブがかかっていて、優しそうな印象を与える。
あまりの驚きの光景に動けないでいると、女性が卓袱台に湯呑みを置き、にこと笑いかけた。
「おかりなさい。」
直後に声がきこえた。りん―と鈴を優しく揺らしたような、綺麗な声。
「た…だいま………て……はい?」
思わず、返事をしてしまった。
はっ!なんで見ず知らずの人に………いや、そもそも不法侵入だ!
「雨宮 詩津さん」
また、にこと彼女は微笑む。
「はっはい‥………」
返事をしてから気付いた。
あれ?なんで名前知ってるんだ。
「あの、あなた誰ですか?」
家に入ってから少しして、やっと彼女の正体を尋ねる言葉を発せられた。
そう言うと、彼女は手を顎にやり、考えるポーズをとる。
「そう、ですねぇ……」
「いや、別に考えなくても、誰でもないなら速やかにお引き取りをおね――」
「なら、『はこびびと』というのは如何でしょう?」
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