マキちゃん

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  自分の部屋で一息つく。ケンちゃんが電話の最後で村田さんが高熱で倒れたと教えてくれた。 村田さんは大学時代の先輩で今は大学院に籍を置くかたわら繁華街にバーを開いている。僕やケンちゃんは人手が足りない時にだけそこを手伝わせてもらっていた。大学時代は2期上だったが、何度か浪人しているらしく正しい年齢はわからない。 その村田さんが働けない分人手が足りないそうだ。しかし僕はそれほど客商売が得意でないので率先して立候補できるほど役に立たない。 「なにか忘れてないかい」 ボーガスがにやけた顔で言う。そうだった。マキちゃんのことを忘れていた。 たっぷり30分もほったらかしにしていた新着メールを開く。差出人名は<マキ>になっていて、アドレスは花の名前と四桁の数字。数字が生まれた西暦だとしたら僕の2つ年下だ。 ✉ 件名:お疲れさま😃 本文:急にバイト先行ってごめんなさい💧今日暇だったらご飯食べに行きませんか?    いつでもいいのでよかったら返事ください😁 「見かけによらず積極的な子だね。前のめりな姿勢が文面によく出てる」 「どうして、僕なんだろう」 それが疑問で指が動かなかった。 僕のどこを気に入ったのだろう。昨日のファッションと同じで、友達にけしかけられたうえでのことで自然な行動ではないのではないか。 「何度も言うが君は考えすぎる。彼女の気持ちがどうあれ、今は単に食事に誘われているだけだろう」 「そうだね。食事でもすれば僕がつまらない男だってわかるはずだ」 「この段階でネガティブな発想はナンセンスだよ」 送信✉ 件名:メールありがとう 本文:突然だったからびっくりしたけど気にしなくていいよ    晩ご飯?それならまだ少し時間あるね 昼にコンビニで期限の怪しい弁当を食べて以来胃にずっしりとした圧力を受けたままだが、夜なら食欲も戻っているだろう。それまでなにかして時間を潰そうと提案されたら受けるつもりだ。 「そんな風に浮かれる君を見るのは久しぶりだな。そのまま落ちるようなことにならなければいいんだが」 送信メールを打っていくうちに気分が高揚した。しかし気分のままに浮かれている気にもなれなかった。この発展は急すぎる。  
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