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合コン
「ねえ、髪の長い子は君のこと気に入ってるらしいよ」
居酒屋の座敷、8人座の長テーブルに男ばかり4人。
半分が空いているのは女性陣が一斉に化粧直しにいっているからだ。
空いているはずの女性席に横たわっているのはピエロの衣装を着た金髪で体毛の濃い中年男。
その姿は僕にしか見えずその声も僕にしか聞こえないので、当然頭数に入っていない。
彼は僕だけの妖精だ。
(あの子はケンちゃんが狙ってるから駄目だよ。
それにあんまり僕のタイプじゃないし)
「ケンちゃんに任せるなんてみすみす不幸にするようなものじゃないか。
良い子だと思うよ。
好みなんてないくせに、そんなに童貞を大事にして僧にでもなるつもりかい」
今は同級生のケンちゃんから誘われた合コンの最中で、<彼>は見えないことをいいことに化粧室に入り込んで女性陣の会話を盗み聞きしてきた。
僕と誰かをくっつけようとするが、残念ながら僕にその気はない。
「何度も同じことを言うけど、君が誰かと一夜を共にする機会を得た時には席を外すから、心配しなくていい」
確かにそれは僕が恋人を作ろうとは思わない一因ではある。
(僕は数合わせだから、今日は楽しんで帰るだけだよ)
小学校から大学までのくされ縁のケンちゃんが合コンを開く度に僕を呼ぶ理由は、僕が異性に対し消極的で競合者にならないことが大きいだろう。
一方で「必ずお前にぴったりな相手を見つけてやる」と言ってくれているのもどうやら本気らしい。
そんな風に世話を焼かれない限り永久に恋人ができない気もするせいもあってまったく期待していないわけでもなかった。
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