友と恋と

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友と恋と

  「うん。酔った時の君はいつもそれを議題にあげるね」 住んでいるワンルームに帰ってくるなり冷蔵庫からチューハイの缶を取り出してテーブルに置いた。今日はもう少し飲みたい。コップに移して少しだけ口に運ぶ。彼の言うように酔っている自覚はないが反論はしなかった。 「納得できないからさ。僕はもう子供じゃない。なのに子供特有らしい幻覚を見るのはどういうわけだろう」 「唯一の友人に幻覚よばわりされるとは、悲しいことだね」 「誤解しないでくれ。幻覚だったところでボーガス、お前に対する評価が下がるわけじゃあない」 ボーガスは僕に背中を向け、あぐらをかいてTVを見ている。部屋に戻った時すでに今の体勢でいた彼は首だけ振り返って「やっぱりTVがつけっぱなしだったよ」と言った。 「幻覚と言われるのを否定はしないよ。こんなことができるのだから」 ボーガスは立ち上がると頭を半分壁に差し込んだ。まったく抵抗がないらしく、何度も沈み込ませては顔を出す度に百面相して見せる。この手で化粧室に入り込んで盗み聞きをするわけだ。今この2階の部屋にいるのも彼にとっては浮いているようなものなのかもしれない。 全てを透過できる代わりに彼は全てのものに触れることができない。唯一彼に触れることができる僕も、僕の脳が彼に触れていると感じているだけという風に理解した方が納得できる部分が多い。彼はマボロシだ。 「だがそれでは矛盾が発生するんじゃないかな」 「そう。なら僕は本来知りえない情報を、幻覚を通じて得ていることになる。その点から言えばボーガス、お前は妄想や幻覚ではあり得ない」 ひょっとすると守護霊ではないか。過去にそう考えたこともあった。しかしボーガスは三角のひらひらがついたピエロのようななりをしている。こんな守護霊もないだろう。それに日本人の僕に海外の童話に出てくる木こりのような風貌をしたご先祖様がいたとも思えない。 きっとどんなに考えても答えは出ない。だから僕は時々こうして彼に直接問う。 「お前は一体なんなんだ。ボーガスは僕がつけた名前だ。それ以外で呼ぶ時僕はお前をなんと呼んだらいいだ」 「決まっているじゃないか。友と」 「それはもちろんそうだけど」 反論しにくいことを言われ、僕は口ごもった。
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