友と恋と

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彼が自分について口にすることはない。僕の日常を横で見ていてあれこれアドバイスをくれるだけだ。物知りで頭が良く、物に触れない彼の代わりに駒を動かしてチェスや将棋で対戦した時は手も足も出なかった。彼が学校のテストで協力してくれていたら、僕は相当優秀な学生になっていただろう。なにしろ彼の知識だけでなくカンニングもやりたい放題だ。 実際の彼は僕がそんな風に悪いことを考えると諌める。おまけに礼儀作法にもうるさいので窮屈に感じた時期もあった。 「議論よりメールアドレスを教えてもらったろう。帰宅を知らせて今日の出会いに感謝する連絡をしたらどうなんだ」 「大げさだな。僕からメールしても、かえって返事に困らせるだけだろう。もし着たら返すくらいでいいさ」 他の誰かといる時はそうならないものの、ボーガスと2人でいる時、僕の口調は彼にとても似る。それはやはり彼の存在が僕の意識によって成り立つものだと示しているような気もして、もしかすると僕の自意識は彼の方が本体なのではないかという不安も少し出てくる。 僕は異常者なのか。そう考えると積極的に誰かと関わろうという気になれない。 「髪の長い子はケンちゃんにとられちゃったから、他の子はどうだい。会話は皆と弾んでいたみたいだけど」 僕の気持ちをまるで理解していないかのような調子でボーガスはメールを勧める。僕はそれがおかしくて少し笑った。わからない振りをしていても、僕の思ったことは全てボーガスに伝わっている。全て承知の上で言っているのだ。どうにか行動を起こさせようとする姿勢はケンちゃんよりも彼の方が強引と言える。
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