筆1【死】

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「私の為に死になさい」 俺たちの隊長、レオナ姫は、神人譲りの超絶美と荒々しさを含む躍動美を備えていた。 だが今、その面影はない。 不治の病に侵され、死期が迫った恐怖が姫から光を奪った。 そして、死を回避する術を提示され、生への執着に取り付かれたとき、姫は狂気を友とした。 「お前たちは、誓いのままに私の命になるのよ!」 大きく笑う姫の前には、俺たち姫直属の兵士たち。 皆、下を向き身動きできない。 姫が左手に持つ誓言書のせいだ。 『姫のために死をも受諾するか?』 その答えを記したもので、本来は士気を高め、絆を強くするためのもの。 その誓言書に魔法をかけ、俺たちの自由を奪う。 そうして、姫は右手に持った魔剣で兵士の命を奪っていく。 それが死から逃れる方法らしい。 そして、とうとう俺の番。 魔剣が襲い来る瞬間に、抜剣し突き出した。 「あ……、え…?」 俺の剣は姫の胸を貫いた。 姫は俺を覚えていただろうか? 誓言書に唯一“否”と書き、 『愛する人を残して死ねない』 と答えた小隊長が俺。 俺は今、愛する人の命を奪い、その人の手で死を迎えた……。
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