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私の指先は呪われている。
触れた人の命を例外なく奪う。
故に私は独りだ。愛する者を抱くこともできず、親しい者を作ることも諦めた。
私の仕事は暗殺者である。普通の仕事も生活も希めはしなかった。
今夜の標的は、この国の大臣だ。国の汚れ仕事の全てを担う、まだ若い男だ。
「ああ……、綺麗な指だ……」
これから己を殺す凶器を前に彼は呟く。
常に隠されている私の指は雪よりまだ白い。
真っ黒の装いの中で、指先だけが外気に晒され、月明かりを反射する。
「さあ、その指先で俺を殺してくれ。
もう無理だ。人を陥れる度に俺の心は死んでいく。
この為だけに育てられたが、心をそれに耐えれるようにはしてくれなかったんだ」
静かな独白。それで気付いた。依頼人は彼自身だ。
だが、生まれたのは憐れみなどではなかった。
この馬鹿者に腹が立った。
私の指先に触れようと近づく彼を足の裏で思い切り押し返してやった。
「逃げる気?
私は、最初の母さん以外は、私自身の意志で命を奪ってきたわ。
貴方も自分の意志で、世界を変えてみせなさい」
そう言い捨て、私は消える。
「その時、殺してあげる……」
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