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全てを焼き尽くす灼熱の息吹。
高熱の余波で、月光と残り火が照らす森林には、夜にはありえない陽炎が揺らめいていた。
夜の陽炎から現れたのは、俺が切り裂いたはずの竜の顔。火竜の子供の顔だ。
巨体の子竜は、鰐(わに)と蜥蜴(とかげ)を足して二で割ったような、顔が長い首の先に鎮座して、あごからは剣山がごとき牙が列をなしていた。
攻撃が効かないという事実の前に、剣は棒きれと同価値だ。
不死身の変異種。戦おうなんて選択肢は俺の中にはない。ただただ本能が逃げろと全力で叫ぶばかりだ。
「くそっ」
やってられない。ただの子竜の退治だったはずなのに、この展開はない。めげるな、俺。くじけてもいいぞ、俺。
ともかく全力疾走だ。素早く敵に背中を見せて、俺は駆けだす。その速度が普段の数倍になっているような気がしなくもない。あきらかに錯覚だ。
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