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ある晴れた日のこと。
「沖田さん!あまり起きていてはお体に障ります。」
「そんなに起きてないってば。千鶴ちゃん、最近土方さんみたいだよ?」
沖田が縁側で日に当たっていると千鶴がぱたぱたと駆けてきて、布団に寝ていない彼を叱る。
この光景は沖田が池田屋で倒れてからの日常となっていた。
そして沖田がそれを煙たがって話をはぐらかすのも“いつものこと”だ。
「話をそらさないでください。みなさんも心配されているのですから、ゆっくり寝て、早く風邪を治して下さい。」
隣に腰掛け、沖田を覗き込む。いつもは叱るとのらりくらりとこの説教を躱すのだが、なぜだかこの日はそれがなかった。
「…そうだね。」
沖田はすでになんとなく気づいていた。自分の病名を。この病気は治らないどころか自分の体を蝕んでいき、もう二度と刀を振れなくなることも。
「ねえ千鶴ちゃん、僕今お茶が飲みたい気分なんだ。飲んだらちゃんと布団に戻るから持ってきてくれない?」
突然の滅多にない沖田の頼みに、千鶴は「はいっ!」と嬉しそうに頷き、早速お茶を用意しようと立ち上がる。
「あ、もちろん君の分もね?一人で飲むのは楽しくないから。」
千鶴はもう一度頷き、今度こそ炊事場へ向かった。
「君はどうして僕なんかにかまうのかな。刀を握れなくなる僕なんて放っておいてくれればいいのに…。」
そのつぶやきは誰が聞くでもなく空へ消えた。
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