なぜだか君が愛おしくて。

2/5

206人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
ある晴れた日のこと。 「沖田さん!あまり起きていてはお体に障ります。」 「そんなに起きてないってば。千鶴ちゃん、最近土方さんみたいだよ?」 沖田が縁側で日に当たっていると千鶴がぱたぱたと駆けてきて、布団に寝ていない彼を叱る。 この光景は沖田が池田屋で倒れてからの日常となっていた。 そして沖田がそれを煙たがって話をはぐらかすのも“いつものこと”だ。 「話をそらさないでください。みなさんも心配されているのですから、ゆっくり寝て、早く風邪を治して下さい。」 隣に腰掛け、沖田を覗き込む。いつもは叱るとのらりくらりとこの説教を躱すのだが、なぜだかこの日はそれがなかった。 「…そうだね。」 沖田はすでになんとなく気づいていた。自分の病名を。この病気は治らないどころか自分の体を蝕んでいき、もう二度と刀を振れなくなることも。 「ねえ千鶴ちゃん、僕今お茶が飲みたい気分なんだ。飲んだらちゃんと布団に戻るから持ってきてくれない?」 突然の滅多にない沖田の頼みに、千鶴は「はいっ!」と嬉しそうに頷き、早速お茶を用意しようと立ち上がる。 「あ、もちろん君の分もね?一人で飲むのは楽しくないから。」 千鶴はもう一度頷き、今度こそ炊事場へ向かった。 「君はどうして僕なんかにかまうのかな。刀を握れなくなる僕なんて放っておいてくれればいいのに…。」 そのつぶやきは誰が聞くでもなく空へ消えた。 、
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

206人が本棚に入れています
本棚に追加