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春の暖かい風が頬を撫でる。その気持ちよさに目を細めつつ、横を歩いている楓を横目で盗み見る。
彼女も風に遊ばれている髪を片手で押さえつけながら、僕と同じようにしていた。
それからは互いに無言で細い砂利道を歩き続け、時折車道を走る車の音とすぐ横を流れている川の声を聴き続けていた。
この穏やかな時間。それがずっと続けばいいと心の底から願う。これを守るためなら、僕はなんでもするだろう。
砂利道が舗装され始め、道も広がり、さっきまでまばらだった人が段々増えてくる。もう少しで学校だ。
僕は軽く伸びをしながら歩き、朝の陽光を全身に浴びる。とっても今更な行為だが、したいのだから仕方がない。
そんな事をしていると今まで黙っていた楓が、いきなり僕の目前に立ちはだかるように動いた。
「朝って、なんか凄くのんびり出来るよね。風も気持ちいいし、陽の光も暖かいし」
「……要は、楓は今、眠いって事かな?」
「ありゃりゃ。またバレちゃった」
と言いつつ、彼女は右手で口元を隠しながら小さく欠伸をする。
暖かいから眠くなる。まるで猫みたいだが、ここは黙っておく。
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