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ばかな話だ。世の中はそんなものじゃ無いんだ。この世に暮して行くからには、どうしても誰かに、ぺこぺこ頭を下げなければいけないのだし、
そうして歩一歩、苦労して人を抑えてゆくより他に仕様がないのだ。あの人に一体、何が出来ましょう。なんにも出来やしないのです。私から見れば青二才だ。
私がもし居らなかったらあの人は、もう、とうの昔、あの無能でとんまの弟子たちと、どこかの野原でのたれ死にしていたに違いない。
「狐には穴あり、鳥には塒(ねぐら)、されども人の子には枕するところ無し」
それ、それ、それだ。ちゃんと白状していやがるのだ。
ペテロに何が出来ますか。ヤコブ、ヨハネ、アンデレ、トマス、痴(こけ)の集り、ぞろぞろあの人について歩いて、脊筋が寒くなるような、甘ったるいお世辞を申し、
天国だなんて馬鹿げたことを夢中で信じて熱狂し、その天国が近づいたなら、あいつらみんな右大臣、左大臣にでもなるつもりなのか、馬鹿な奴らだ。
その日のパンにも困っていて、私がやりくりしてあげないことには、みんな飢え死してしまうだけじゃないのか。
私はあの人に説教させ、群集からこっそり賽銭を巻き上げ、また、村の物持ちから供物を取り立て、宿舎の世話から日常衣食の購求まで、
煩をいとわず、してあげていたのに、あの人はもとより弟子の馬鹿どもまで、私に一言のお礼も言わない。
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