プロローグ・「始マリハ仄暗ク

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風が吹き荒ぶ 木々の合間を、家の合間を 男と女、二人の合間を ひゅるり、ひゅるり、と 小さな音を引き連れて やがて、その音が幾重にも重なって 沈黙する夜に響く、それは鎮魂歌(レクイエム) 血濡れた現実を 憎み合い殺し合った彼らの夢を 永遠の淵に沈んだ真実を 人は忘れる 知ろうとはしない 忘れられた想いは悲哀を映した歌になる 血に濡れ倒れ伏した二人を弔うための歌 女の目に浮かぶ涙の意味を解するための歌 残酷で美しく、愚かなる歌 その旋律すらも人は忘れようとしている それは人の性であり、仕方ない事なのかもしれない けど だから 「……、…………」 その時、鎮魂歌に新たな音が加わった 初めて声になった女の想いが、新たな旋律として風に乗る もう二度と動かない男にそれが届いたかは定かではない そして女は祈りながら 静かに目を閉じた .
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