愛シキ日々ヨ、サラバ

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しかし彩は至って冷静、まるで予想通りとでも言わんばかりに落ち着いた様子でそれを確認すると、アイコンにカーソルを合わせボタンを押した。 そうしてメールBOXに飛べば、15件という数の受信メールが一挙に表示される。 彩はそれらに一通り目を通した後、やっぱり……と一言だけ呟いてから更に俯いた。 表現の差異はあれど、確認した15件のメールの内容は皆ほぼ同じだった。 『お誕生日おめでとう!』 今日、6月28日。 ぼちぼち梅雨の気候からも抜け出し、日光を浴びた若葉が淡く煌めく初夏。 18年前のこの日、桂田 彩(カツラダ アヤ)という名前を貰い、彼女はこの世に産み落とされた。 そう、今日は彩の誕生日なのだ。 「……メール、返さなきゃ」 バースデーメールありがとう、すごく嬉しいよ。 彩は友達から貰ったメール全てにそういった内容の文を返す。 無理をして明るく取り繕った文面と実際の彼女の様子の間には明らかな隔たりがあるが、そこは現代メディアの恐ろしいところ。 彼女の本心は見事なまでに隠蔽され、恐らく誰もそれに気付くことはない。 無表情でただただ機械的に文字を打ち込む地味な動作は、鬱状態に近い今の彼女に似合いの作業と言えた。
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