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何も答えないことを肯定と解釈したのか、彼女は哀しく顔を歪ませた。
「あの時生徒会室に田中くんと笹山先生がいたんですよね?わたし、あのふたりのこと、知っているんです」
「……そんな」
知っている?
そんな馬鹿な。
知っているのに。
気づいているのに。
「どうして田中くんと付き合っているの?」
思わず口から出てしまった。
真里ちゃんは肩を萎めると、「わからない」と答えた。
――まだ好きなのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。
――ただ、別れる勇気がでないの。はじめて好きになった人だから。はじめて付き合った人だから。
――だけど浮気を許しているわけじゃないんだ。哀しいし、すごく悔しい。
――でもそれ以上に、自分が傷つくのが怖いの。
水浴びする子供たちの声に掻き消されそうなほど、弱くて細い声だった。
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