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真里ちゃんは少し泣いた。
それからちょっとだけ笑って
「太郎くんは優しいね」
と言った。
それきり真里ちゃんが黙ってしまったから、僕も黙ったまま彼女の隣にいる。
噴水からあがる水しぶきの音が消え、少しずつ子供たちがいなくなっていく。
遠くの空でカラスが鳴き、空を朱く染める。
僕たちはただ、並んでそれを見ていた。
真里ちゃんが何を考えているのかはわからないけれど、会話がなくても不思議と心地好い。
そう思っているのはきっと僕だけで、今のこの瞬間を幸せだと思っているのも僕だけ。
でもいいんだ。
おばあちゃんの飴のおかげで、僕はこうして真里ちゃんと同じ時間を過ごすことができている。
かけがえのない時間。
おばあちゃん、ありがとう。
沈んでいく夕日に心の中で頭を下げた。
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