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やがて火の玉はクルクルと回り出し、円を描きはじめた。
僕は声も出せずにそれをただ見ている。
しばらくすると中心がぼんやり赤くなった。
ボンっという音とともに煙がたち、僕はゴホゴホと数回咳こんだ。
「久しぶりだね、太郎」
もくもくと煙が立ちこめるその中から声が聞こえた。
太郎の“う”の字をしっかりと発音する、特徴ある呼び方。
僕のことをそう呼ぶ人間は、ひとりしか知らない。
「……おばあちゃん?」
煙の先にぼんやりと人影が見えた。
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