10973人が本棚に入れています
本棚に追加
/314ページ
「きゃっ」
真里ちゃんが小さく悲鳴をあげた。
それはもちろん、僕が急に彼女を抱きしめたからで。
「ごごご、ごめんね!!」
僕は慌てて彼女から離れた。
真里ちゃんは蒼白した顔で後ずさる。
……何てことをしてしまったんだ!!
僕のアホ。これじゃ変態だ!!ただの変質者だ!!
抱きしめていいわけないだろ。
相手に了解を得ずに触れたら痴漢と一緒だ。
好きでもない男に触れられて、真里ちゃんはきっと嫌な思いをしたはず。
「真里ちゃん、ほんとにごめんね。慰めたくてあんなことしちゃったんだ」
言い訳がましいけど、許して欲しくて必死だった。
「ううん。違うの」
真里ちゃんは怯えたように僕の肩を指さす。
「……蜘蛛が、そこに蜘蛛がついてるの」
……蜘蛛?
僕は自分の左肩を見た。
そこには親指の爪くらいの蜘蛛がのんびり休憩していて、指先で触れるとカサカサと早足でいなくなった。
「あたし蜘蛛が苦手で……」
「……なんだ」
力が抜けた。
触られたことが嫌だったんじゃないんだ。
安心して座り込みそうになった僕に、
「あ、でも泣いてたからって急に抱きしめるのはナシね」
と、真里ちゃんが爽やかに言った。
.
最初のコメントを投稿しよう!