僕が僕だった日

39/49
前へ
/314ページ
次へ
日焼けした黒い物体がひとりで騒いでいる。 目も鼻も口もない。 ただつるんとした黒い肌に、かつらのように髪の毛が乗っている。 「……のっぺらぼうっていうんだよね」 真里ちゃんがぼそりと呟いた。 そうだ。 たしかのっぺらぼうという妖怪がいた。 今の岩ちゃんは、まさにソレだ。 「え?俺のっぺらぼうなの!?」 誰よりも慌てているのは岩ちゃん本人で、 僕は「ああ、これが大変なことか」とひとり納得していた。 真里ちゃんに至っては「太郎くんのアドバイスを無視したのは自分でしょ?」と、平然と言い放つ。 ……まあ、そうだけど……ねえ。 真里ちゃんは岩ちゃんには冷たいらしい。 「俺どうなっちゃうの!?」 頭を抱えて大騒ぎする岩ちゃん。 いつになく弱気な岩ちゃんを見れて、僕はとても愉快な気持ちになった。 この先こんな姿、二度と見られないかもしれない。 太陽にも見せてあげたかったな、と本気で思ってしまった。 .
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10973人が本棚に入れています
本棚に追加