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「……まあ、覚えてなくても仕方ないことかもしれないねえ」
おばあちゃんは小さく溜息を漏らすと、愛おしむように宝箱の中から洋服を一枚取り出した。
色褪せてしまっているけど、それはピンクのポロシャツだった。
「……それ」
見覚えがあった。
いつだろう。いつ、見たんだろう。
「僕、知ってるかもしれない。その、ポロシャツ」
頭の片隅にある記憶を引っ張り出す。
誰かが着ていた。
この鮮やかなピンクのポロシャツを着て、僕の頭を優しく撫でてくれた。
玄関の花瓶を割ってしまった時も、
転んで怪我をしてしまった時も、
その人はいつも優しく笑って、大きな手で僕の頭を撫でてくれた。
「……おじいちゃんの、ポロシャツだ」
どうして忘れてしまっていたんだろう。
どうして小汚いなんて思ってしまったんだろう。
……僕は、最低だ。
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