決戦は土曜日

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想像以上に人が集まっていた。 野次馬と、エキストラだろうか。 その中心に芸能人がいる。 「お、やっぱり撮影だな。誰がいるんだ?」 岩ちゃんが人の頭を掻き分ける。 乱暴だ。 わざわざ頭を掻き分ける必要はない。 僕は少し離れた場所からひっそり傍観している。 これ以上近づきたくない。 あの中心にいる人物が、もしも僕のよく知る人だったら……と考えると、めまいがする。 「何の撮影なのかな?」 「ドラマじゃない?だってほら、あの人女優さんだよ」 華さんが指をさし、真里ちゃんがそちらに目を向ける。 ここにいても聞こえる。 俳優さんたちの声。 「他に、誰がいる?」 太陽は特に興味はないようだけど、気を遣って会話に加わっている。 「誰でもいいよ。早く行こう」 とにかくこの場所から立ち去りたい。 だって、 気づいてしまった。 あの中心にいる人物が誰なのか。 僕が聞き間違えるはずがない。 あの声を。 「ギャハハハハ!!」 よく聞く下品な笑い声があたりに響いて、 僕は人魚姫のように泡になって消えたいと、切に願った。 .
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