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「あ、あの……」
嫌々とかぶりを振る父さんの背中を無理矢理押していると、真里ちゃんが口を開いた。
「ん?どうしたのかな?美少女」
美少女、て。
たしかに美少女だけど、その呼び方はどうかと思う。
「大騒木さん……ですよね?太郎くんのお父さんだったなんて、知りませんでした」
「何だよ太郎。秘密にしてたのか?秘密はよくねーな。何でもパカーンとオープンにしなきゃいけねえだろ」
……あなたがそんなんだから、秘密にしておきたいのです。
ちなみに、大騒木とは父さんの芸名だ。
大騒木一(オオサワギハジメ)。
ふざけた名前だけど、本気だ。
「いやはや、こんな美少女が太郎の彼女とはなー。あっちにいる色黒筋肉の彼女と比べると、月とスッポンだな」
……さりげなく失礼だよ。
しかも色黒筋肉って、明らかに岩ちゃんのことじゃん。
「太郎もすみにおけないじゃねえか。このっこのっ」
グリグリと肘で僕の頬を突く、父さん。
「か、彼女なんて言ったら真里ちゃんに失礼だよ」
そうであってくれたら幸せだけど、残念ながら真里ちゃんは彼女じゃない。僕が勝手に好きなだけだ。
「彼女に見えますか?もしそうなら、とても嬉しいです」
ちょっぴり頬を赤く染めて、彼女は照れたように笑った。
……とても嬉しいです、だって?
トテモウレシイデス。
それって、
つまり。
嬉しさと恥ずかしさで体温が上昇していく。
今なら機関車トーマスに負けないくらい、速く走れるような気がした。
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