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父が死んだ。
その報せを母から電話で聞いたとき、僕は特に何も思わなかったし何も感じなかったが一応、「そうか・・・」といかにも残念がるような口調で応えてみた。
その後、母と今後のことについ話して僕は電話をきった。
明後日実家に帰ることになった。
僕は六畳しかない部屋の真ん中に寝転がる。
父が死んでも何も思わず何も感じない。それはとても親不孝だし人としてどうなんだ、とも思うが仕方ないのだ。
僕は、仕方ないのだ。
生まれたことが失敗で、何もしていないのにすでに敗北していて、どうしようもないほど虚無。それが僕、梨本名無(なしもとななし)の性質なのだから。ちなみにこれは昔母から言われた言葉だった。
父さん、どんな顔をしていたっけ。まるで思い出せない。
顔だけじゃない、父さんの年齢、誕生日、星座、血液型、骨格、ラッキーカラー、趣味、仕事・・・名前でさえも思い出せない。
父さんだけじゃない。
母さんのことも妹のことも、何ひとつ思い出せない。さっき母さんと電話しているときも、僕は半信半疑で会話をしていた。僕にとって家族なんてその程度、そのくらい小さな存在なんだ。
とにかく、金はないが立場上帰るしかない。
僕はパソコンを立ち上げ、東京から実家の新潟までの最安経路を調べ始めた。
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