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「入って来た方の扉が開かないの!!反対側は開いてる!!」
ガッ……。
田浦はトランシーバーに向かって叫びながら、扉を押したり引いたりする。
やはり開かない。
『黒田君は?』
聞こえて来た低い声に、田浦ははっと息を呑む。
「気付いたらいなくなってた……」
悔しそうな表情をする田浦を見詰めて、僕はトランシーバーを受け取った。
『隣の部屋には冷凍室があるはずですが?』
「冷凍室?」
槌谷の声に、おうむ返しに問いかけながら、僕は奥の扉に視線を向ける。
『はい。こちら側の扉の向こうに、案内板が正しければ』
こちら側?
聞き返そうとして、僕ははっとした。
「響、君だけか?」
返事のないトランシーバーに不安感が募る。
「来るのは君だけか?」
不安感に急かされるように問いかけると、ザザッ……とノイズが走った。
ドンドン!!
と扉から聞こえた音に、僕はほっと息を吐く。
「守本!!梢!!」
叫んでいるのは日向のようだ。
だとすれば、槌谷はどこにいるのだろうか。
『とんでもない事になってますね……』
ガッ……ガガッ……とノイズが聞こえて、
『黒田君の体を見付けました』
静かな空間に、その声がやけに響く。
『バラバラの血塗れですが』
冷静過ぎるその声のせいか、ふうっと意識が遠退いた。
見れば田浦はガタガタと震えながら大きな目を見開き、きつく唇を噛みしめている。
『ただ、気になる点が1つ』
もういい。止めろ。
吐き出そうとした言葉は、田浦の悲鳴にかき消される。
「イヤぁぁあぁぁあぁ!!」
『彼の頭部がないんですよ』
あっさりと、やけにあっさりとそう言って、槌谷はトランシーバーをオフにした。
これが、単なる肝試しが肝試しではなくなってしまった瞬間だった。
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