BOX

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取り乱す田浦を落ち着かせている間に、槌谷は日向と合流したらしい。 ぼそぼそと聞こえて来た話し声に、僕はほっとする。 めそめそと泣いているだけの田浦の面倒を見るのは、もうごめんだ。 「こっちです。非常口には日向君と玉山さんがいますから、今の所は大丈夫でしょう」 槌谷に急かされるようにもう片方の扉へ向かうと、日向と玉山が、扉を開けて待っていた。 日向の顔色が悪い。 「見ない方がいいと、止めたんですがね」 肩を竦める槌谷と、槌谷から視線を逸らす日向と。 そう言えば、見てしまうかと思っていた黒田の死体は、結局目にしていない。 「……このまま出られれば、警察を呼んで終わり何ですがね……」 階段を上りながら、槌谷がぽつりと呟く。 「響」 呼ぶと、槌谷は僕に顔を向けた。 別段、普段と変わった様子はない。 こんな混乱するような状況下で、だ。 「頭部がなかった、と言ったな?」 「えぇ、パーツに少し違和感が……詳しく調べる暇がありませんでしたから、持ち去られたかと判断しました」 淀みなくそう言われて、僕は押し黙る。 その言い方だと、こう言う事態に慣れているかのようだ。 「……今度は非常口を封鎖、ですか」 溜め息混じりの槌谷の声に、僕は手を伸ばす。 扉は開かない。 「もうイヤ!!何でこんな目に遇わなきゃなんないのよっ!!」 後ろからの叫び声に、僕と槌谷は振り返る。 玉山の手を払う田浦の姿には、鬼気迫る物があった。 「梢ちゃん!!」 玉山の制止を振り切って、田浦は階段を駆け下りる。 ヒステリーを起こしてしまったようだ。 「待って!!梢ちゃん!!」 普段からは考えられない速さで階段を飛び越え、田浦は僕達を置いて行ってしまう。 嫌な感じがした。 下りてはいけない。そう言われているような気がする。
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