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涙が出て来た。
ただの肝試しだったはずなのに、この建物を回って、写真を撮ったら帰るだけだったのに、何でこんな目に遇わなきゃいけないの!?
やるせない思いを吐き出すけれど、出るのは胃酸だけだ。
ゲェゲェと言う音に、真っ暗な視界。
おまけに涙で何も見えない。
だけど、私ははっとする。
後ろから付いて来ていた皆は?
ヒタヒタ。
裸足のような足音が、前方から聞こえて来た。
前から?何で?前にあるのは開かない扉じゃ……。
恐る恐る、落ちた懐中電灯に左手を伸ばす。
恐さと不可解さと困惑と。全てが入り交じって頭が働かない。
ザクッ。
何かを切るような音が聞こえて、手首がぱたりと地面に当たった。
懐中電灯を握った私の手が見える。
ザクッ。
今度は座り込んだままの私の目の前に、何か棒状の物が刺さった。
生暖かい何かが、じわりと太股を伝い広がって行く。
落とした視線の先に、私の足。
何かに貫かれた、私の足。
「ぎゃあぁあぁああああぁっ!!」
それを認識した瞬間、喉から酷い声が出て来た。
引き抜こうとして添えた手が……左手の先がない。
「あ……ひ……手が……あはは……は……」
勢いよく飛び散る血を無事な右手で押さえながら、私は顔を上げる。
犯人らしきその人物の顔は見えない。
「がっ……」
眉間の辺りに衝撃を感じて、私の意識はそこで途切れた。
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