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誰も動かなかった。
聞こえた悲鳴が途切れて、玉山美香は扉の前にぱたりと両膝を付き、見ていた日向健と守本一樹も青ざめた表情のまま微動だにしない。
犯人の目的が何であれ、我々の先回りをして地下に閉じ込めていると言う事実は変わらないのだが。
しかしながら、このまま固まっていれば当面は安全であるとも言える。
残った人数は4人。
1度に相手にするにはリスクが高過ぎると言う物だ。
勿論、この中に共犯者がいなければの話だが。
「上の扉を閉じたタイミングが、早いような気がしませんか?」
項垂れたままの面々に、私は問いかける。
睨み付けて来る日向健と何かに気付いた守本一樹の様子は、酷く対称的で面白い。
「1人ずつ確実に仕留めたいのならば、私ならもっと上手く誘導しますね」
「不測の事態が起きた……?」
守本一樹の声に、私はこくりと頷いた。
「例えば誰かが建物内に入って来た、とかの理由があるのでは?我々を閉じ込めている間に、新たな獲物を引き入れるつもりだとすれば、あり得ない話でもありませんしね」
ふふふ。
楽しくなって来ました。
心の中でだけ呟いて、私は携帯電話を取り出す。
圏外とアンテナ1を行ったり来たりしていた。
「上に行けば、電話が使えるかも知れませんね」
「警察を呼ぼう……」
私の声に、守本一樹がすかさず答える。
この状況でも冷静な判断が出来る人物がいれば、何かと話が早い。
「僕も行くよ」
立ち上がった守本一樹の手を、玉山美香が握った。
「皆で……行こうよ」
私と守本一樹の会話で、玉山美香は状況を理解したらしい。
泣き叫んでパニックに陥られるよりはマシだろう。
先程と同様に、私達は階段を上る事にした。
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