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ある日私にメールが届いた。
差出人は『黒羊』。
やたらと丁寧なその文章を目で追うと、私は大きな溜め息を吐いた。
「面倒くさ……」
思わず呟いていたらしい。
公にはされていない国家機関、そこに私は在籍している。
買い手の付かない古い家や土地建物の持つ曰くを祓うのが私達の仕事だ。
けれど、今回のメールは仕事じゃない。
『肝試しに誘われてしまいました。死んでしまいそうな予感がしますので、助けに来て下さい。黒羊』
「アホかコイツは……」
呟いて携帯電話を閉じる。
ふと過った考えに、私はにこりと笑った。
電話をかけるべく、ディスプレイを見詰める。
探す相手は、グループ登録で一番上にある名前。
荒田 寿(あらた ひさし)
コール音が響き、途切れる。
『もしもし?』
中性的で澄んだ声。これだけで気分が浮上するのが分かる。
「ねぇ、肝試しに行かない?」
私は説明も挨拶も抜きに、いきなり本題を切り出した。
一瞬、間が空く。
『いいよ』
優しいその声に、私は破顔した。
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