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場所は、県内某所の山奥にある廃ビル。
時間は午後8時。
指定された場所に着き、私達は建物を見詰めた。
一足先に着いたらしい、車が2台停めてある。
「先客みたいだね」
にこやかに微笑みながら、その人は懐中電灯を取り出した。
「元々はレストランとかが入ってた建物何だってね?」
結構な広さのある建造物は、横長な造りになっている。
ショッピングモールだったらしい。
「すぐに潰れたらしいけど……あ、2階に灯り」
ゆらゆらと漏れ光るそれを指さして、私は時計型のライトを手首に巻いた。
「あれ?何で仕事仕様なの?」
目を瞬く荒田寿こと私の兄に、にっこりと笑みを浮かべてやる。
それだけで気付いたらしい、兄は盛大な溜め息を吐いた。
「また『羊』なの?」
「そうだよ」
質問を肯定して、私はデジカメを首から下げる。
「死ぬかもだって?ちょうどいいから、アイツの死に様を残してやるの」
うきうきとしながらそう言えば、兄は真剣な顔で私を見詰めた。
「それは同時に、俺と雫(しずく)も危険だって事だろ?肝試しじゃないよ」
至極当然な事を言われて、私ははっとする。
黒羊がくたばる事に気を取られて、肝心な事を忘れ去っていた。
「ごめん、兄貴」
「まぁ、雫の気持ちは分かるから、止めはしないけど」
微笑む兄の言葉を聞いて、私はえへへと笑う。
「それに、羊が簡単にくたばるとは思えないな……」
「言えてる……」
言いながら、私達は車から降りた。
ふと見上げてみれば、2階の灯りが消えている。
「おかしい」
兄はそう呟いて、懐中電灯を私に投げて寄越す。
私も兄の意図に気付いて、こくりと頷いた。
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