5人が本棚に入れています
本棚に追加
「先に行こうよ」
呆れたような声が聞こえて、俺はそちらに目を向けた。
守本一樹(もりもといっき)が俺を手招いている。
元々無口な守本は、心霊現象にも動じないらしい。
「恐いなら、来なきゃいいのにさ」
守本の声に、俺は苦笑する。
梢は騒ぐのを止めて、守本を睨み付けていた。
「なぁ、おもろいもん見付けてんけど」
先に進んでいた黒田竜二(くろだりゅうじ)が、懐中電灯を振って俺達を呼んでいる。
その声に反応したのか、守本はさっさと踵を返した。
「何よアイツ」
憤慨する梢は柳眉を逆立て、慌てたように美香が宥めていた。
何か疲れる。
漏れそうになった溜め息を無理矢理押し込め、俺は守本と黒田の所へ向かった。
非常口の横にあるボードを懐中電灯の灯りで照らし、守本と黒田は何やら話し合っている。
「なぁ、一樹が行こうて言うてんねんけど」
黒田に問われて、俺は首を傾げた。
何の話か分からない。
「健(たけし)?何かあったの?」
梢に呼ばれて、俺はボードに視線を向けた。
B1・F1・F2……。
「地下?」
目を瞬く俺を見上げて、美香が『え?』と声を上げる。
「な?おもろいやろ?」
ニヤリと笑う黒田を見て、俺は槌谷に視線を向けた。
「止めた方がいい……」
ふるふると首を横に振り、槌谷はきっぱりとそう言う。
「せやかて響、2階建てのビルに地下があるて分かったら、何か行きたなるやん」
楽しそうな黒田の声と表情を見て、守本もうんうんと頷いていた。
最初のコメントを投稿しよう!