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「先に行こうよ」 呆れたような声が聞こえて、俺はそちらに目を向けた。 守本一樹(もりもといっき)が俺を手招いている。 元々無口な守本は、心霊現象にも動じないらしい。 「恐いなら、来なきゃいいのにさ」 守本の声に、俺は苦笑する。 梢は騒ぐのを止めて、守本を睨み付けていた。 「なぁ、おもろいもん見付けてんけど」 先に進んでいた黒田竜二(くろだりゅうじ)が、懐中電灯を振って俺達を呼んでいる。 その声に反応したのか、守本はさっさと踵を返した。 「何よアイツ」 憤慨する梢は柳眉を逆立て、慌てたように美香が宥めていた。 何か疲れる。 漏れそうになった溜め息を無理矢理押し込め、俺は守本と黒田の所へ向かった。 非常口の横にあるボードを懐中電灯の灯りで照らし、守本と黒田は何やら話し合っている。 「なぁ、一樹が行こうて言うてんねんけど」 黒田に問われて、俺は首を傾げた。 何の話か分からない。 「健(たけし)?何かあったの?」 梢に呼ばれて、俺はボードに視線を向けた。 B1・F1・F2……。 「地下?」 目を瞬く俺を見上げて、美香が『え?』と声を上げる。 「な?おもろいやろ?」 ニヤリと笑う黒田を見て、俺は槌谷に視線を向けた。 「止めた方がいい……」 ふるふると首を横に振り、槌谷はきっぱりとそう言う。 「せやかて響、2階建てのビルに地下があるて分かったら、何か行きたなるやん」 楽しそうな黒田の声と表情を見て、守本もうんうんと頷いていた。
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