BOX

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「ほなら、女の子は残り」 やり取りを聞いていた黒田が、あっさりとそう言う。 「僕らで行ってみよう。君達は待っていればいいよ」 冷たい守本の声に、馬鹿にするような響きを感じたのか、梢は勢いよく美香の手を振り解いた。 「梢ちゃん!!」 切羽詰まったような美香の声に俺は驚く。 見れば梢も、懐中電灯を持っている黒田と後に続こうとした守本も、驚いたような顔をしていた。 いつでも積極性に欠ける美香が、こんな声を出したのは初めてだ。 「大丈夫やって、トランシーバー持っとうし。何かあったら連絡するわ」 にっこりと笑う黒田を見詰めて、美香はこくりと頷いた。 「……」 槌谷を見ると、何やら難しそうな顔をしている。 階段を下りて行く足音が、少しずつ小さくなって行った。 「日向君」 槌谷に呼ばれて、俺はそちらに目を向ける。 「案内板によれば、地下に続く階段は2箇所のようです」 「え?」 思いがけない事を言われて、俺はボードを慌てて見直した。 ボードの上を撫でる槌谷の指が視界に入る。 「こちら側は、意図的に消されている。意味、分かりますか?」 殊更ゆっくりとそう言われて、俺は美香に視線を向けた。 真っ青な顔をしている美香と目が合う。 「誰かいるの?」 震える美香の声に、槌谷は肩を竦めた。 「それは分かりません。ですが、これは最近消されたようです」 「どうして?」 問いかける美香を一瞥して、槌谷はボードから手を離す。 「埃すら被っていない。誰かが意図的に、これが目立つようにしたと考えるのが妥当な所でしょう」 槌谷の冷静な声に、俺と美香は目を見合わせた。 「誰かのいたずら?とか」 俺の声は、酷く掠れている。 そうであって欲しい、と願っていた。 「取りあえず、守衛室へ行ってみましょう。建物内の鍵があれば……ただのいたずらで済みますよ」 槌谷の言葉を聞いて、俺と美香は頷き合う。 守衛室は、もう1箇所の階段の目の前にあった。
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