きっかけ

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 参ったな。  遠藤動物病院に戻ると、先程の事ばかりが思い起こされる。  いささか感情的になりやすい部分は自覚していたが、冷静に思い返せばかなりまずいのではなかろうか。  溜め息をつき、がっくりと項垂れた。小さく仕方ない、と呟く。 「……明日、署に…あの人に、謝りに行こう」  謝って済む話ではないかもしれないが、それでも行かなければならない。 (あの人には、悪い事をした…)  彼の仕事を侮辱したも同然だ。自分が同じ目にあえば、どれ程激昂するだろう。それがわからない訳ではない。 「…まだまだ、人間ができてない証拠だな」  溜め息をつきながら、机に手をかけ椅子から立ち上がる。いつまでも項垂れている訳にはいかない。  まだ、業務は終わっていないのだ。  遠藤はおそらく、今日は大学病院から戻らないだろう。  院内の整理整頓を行っていると、扉を開く音がする。聞き慣れた声に頭を上げた。 「よぅ、先生!」 「…御徒町(オカチマチ)さん」  黒い短髪に、凛々しい眼が印象的な青年が訪れた。背も高く、バランスのとれた体格をしている。  あくまで標準といわれる体型の楓からすれば、羨ましく思ってしまう。 「…先生、溜め息なんてついて、疲れでも溜まったんじゃないの?」 「……いや、別に」  そんなことは無いと言う前に、御徒町が遮るように言う。 「駄目だよ、先生。休むときは休んでおかないと。先生がいなくなったら、誰がここを守ってくれるんだよ!」 「…遠藤教授がいるじゃないか」 「腕の良さは認めるけど、先生に比べたら愛情が足りないと俺は思うね!」 「…なんのことやら」  御徒町の力説をさっぱりとかわし、器具を整理しながら言う。 「…そういえば、今日はどうしたんだ?」 「ウチのちぃちゃんの健康診断のお願いに」  彼が取り出したケージには、一羽のセキセイインコがちょこんと佇んでいる。  にこにこと話す御徒町とインコを見比べ、人は見かけによらないんだな、と改めて思う楓だった。
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