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休憩所のようなところで、二人はベンチに座る。楓は自販機で飲み物を買い、まりえに渡した。
「ありがとうございます。それにしても、すごいグーゼン♪」
まりえは楓に代金を払おうとしたが、やんわりと断られたので、申し訳なさそうにそれをしまう。
「そうだね、教育実習以来だからね。…もう、8年かぁ」
早いなぁ、と彼は笑う。
「楓先生は、こっちの学校に勤めているんですか? それとも、学校の先生じゃないんですか?」
「うん、後者が正しいよ」
そう言ってやんわりと笑う。
「…あれで大学を卒業してね、また獣医学部のある大学に入って卒業したばかりさ。今は研修中」
「…なんていうか、思い立ったら実行してしまう先生はすごいですね……」
「動物関係で困ったらおいで。できる限りで協力するよ」
再び笑いかけ、手にしているお汁粉缶を口元に運ぶ。自販機での缶ジュースの選択も相変わらずだ、とまりえは思った。
彼女は柑橘系ジュースを一口飲んだ後、ふと楓がここに来た理由を尋ねた。
「…そういえば、先生はどうして警察署に?」
「…ん、あぁ。そのことなんだが」
楓は歯切れ悪く言い、まりえに向かって言う。
「人を探しているんだ。ここに勤めている新人警官で、俺より背が高くて色素が薄めの人を見かけたりしてないか?」
「…また、そんな微妙な特徴を……」
若干呆れつつ、まりえは記憶を探る。地毛で色素が薄そうな奴…。
そこでふと一人の人間を思い出した。確か彼は染めていないにも関わらず、髪の毛は色素が薄い。また、眼も明るい茶色に少し緑がかっているような、不思議な色合いだ。
確か彼の名前は 、
「…佐伯 順一朗」
「…え?」
「佐伯 順一朗という名前の男だと思いますよ。部署違うけれど、なんとなく目立つからわかりました」
「そう、ありがとう」
まりえににっこりと笑い、ベンチを立つ。
「忙しいところ、引き止めて悪かったね」
「…いや、もう全然! また何かあればお立ち寄り下さい」
「…そうだね、まりえさんもほどほどに頑張ってね。無理はいけないよ」
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