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一日の激務を終え、青年ー山吹 楓(ヤマブキ カエデ)ー は、大きく息を吐いた。
ほんの数ヶ月前までは、まだ学生だった。国家試験に合格し、コンパニオンアニマル学の権威と言われる遠藤教授の病院に研修に来ることができたのは幸運だった。
彼はとても丁寧に、そして深い知識を楓に与えてくれる。毎日が勉強の日々だ。
その遠藤は、今日は大学に講義をするために出かけている。幸い今日は急患も手術もなく、楓の手に負える範囲であった。
そうでなければ、遠藤を呼ぶか、大学病院まで患者を搬送せねはならず、大変慌ただしくなってしまう。
後はカルテを整理し、器具の点検、清掃かと作業を確認したときに、遠藤から連絡が入る。
「はい、遠藤動物病院です」
『…おぅ、楓』
「教授、どうかされましたか?」
『…ちょっと会議が入ってな、遅くなるからいつもの作業が終わったら帰って大丈夫だ。鍵は郵便受けに入れておいてくれればいい。…あと、どれくらいで終わる?』
「カルテ、器具、清掃くらいですから一時間弱を見ています」
『あぁ、わかった。今日一日任せっきりですまなかったな…』
「いいえ、教授こそお疲れ様です」
『明日も、よろしく頼むな』
「はい、明日もよろしくお願いします」
そして電話を切り、楓は残った作業の片付けに入る。
カルテは順番を間違えることなく確実に並べ、器具に不足などあってはならない。
手術台は清潔に、院内も同様である。
一時間弱と遠藤に言ってはいたが、気がつけば一時間半以上経っていた。
「…うーん、報告した時間以上になってしまったけど、これで明日も大丈夫だな」
楓は白衣を脱ぎ、帰り支度をする。
家にいる腹を空かせた「四羽」のために、バナナでも買って帰るか、などと考えながら家路についた。
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