74人が本棚に入れています
本棚に追加
新人警官は署に戻ると、先程の出来事を思い出していた。
「……山吹、楓…」
ひどく綺麗な眼をしていた。
真っ直ぐで、強くて、でも繊細で。
「…睫毛、長かったな。男にしては」
自分のデスクで溜め息をつきつつ、書類にペンを走らせる。すると、その様子を見た同僚が彼に声をかける。
「順ちゃん、違反者に悪態つかれたって聞いたわよ~w」
「…千夏(チカ)ちゃん」
新人警官の佐伯 順一朗(サエキ ジュンイチロウ)は、のんびりと頭を上げる。
同期内では一番仲が良い千夏であるが、お互い恋愛感情が沸かないこともあり、腹を割って話せるいい友人である。
「どんな人? 見るからに危なそうな感じ?」
「…ん、いや、なんていうか…普通だよ。ただ、獣医らしくて、急患を搬送中だったんだ。一刻を争うってことで、相当焦ってる感じだったな」
「この辺りで獣医って言ったら、山吹先生?」
「…え、千夏ちゃん知ってるの!?」
順一朗の驚いた様子に笑みをこぼしながら、千夏は続ける。
「山吹先生は最近、遠藤動物病院に勤め始めた人で、すごく評判いいのよ。顔立ちも綺麗だし」
最後は含み笑いをこぼしながら言う。
「ふーん、なるほど」
なんとなく返事を返すと、千夏は軽く笑い自分のデスクに帰っていく。
書類に目を落とし、並ぶ字面を眺めるが、思い起こされるのは楓の強く真っ直ぐな眼だった。
己の進む道を見詰め、困難に直面しても逃げたりしないのだろう。
そんな彼の眼を、順一朗は羨ましく思った。
(…また、会えたらいいのに)
自分でも理解仕切れぬまま、そんなことを考えている。
最初のコメントを投稿しよう!