きっかけ

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 新人警官は署に戻ると、先程の出来事を思い出していた。 「……山吹、楓…」  ひどく綺麗な眼をしていた。  真っ直ぐで、強くて、でも繊細で。 「…睫毛、長かったな。男にしては」  自分のデスクで溜め息をつきつつ、書類にペンを走らせる。すると、その様子を見た同僚が彼に声をかける。 「順ちゃん、違反者に悪態つかれたって聞いたわよ~w」 「…千夏(チカ)ちゃん」  新人警官の佐伯 順一朗(サエキ ジュンイチロウ)は、のんびりと頭を上げる。  同期内では一番仲が良い千夏であるが、お互い恋愛感情が沸かないこともあり、腹を割って話せるいい友人である。 「どんな人? 見るからに危なそうな感じ?」 「…ん、いや、なんていうか…普通だよ。ただ、獣医らしくて、急患を搬送中だったんだ。一刻を争うってことで、相当焦ってる感じだったな」 「この辺りで獣医って言ったら、山吹先生?」 「…え、千夏ちゃん知ってるの!?」  順一朗の驚いた様子に笑みをこぼしながら、千夏は続ける。 「山吹先生は最近、遠藤動物病院に勤め始めた人で、すごく評判いいのよ。顔立ちも綺麗だし」  最後は含み笑いをこぼしながら言う。 「ふーん、なるほど」  なんとなく返事を返すと、千夏は軽く笑い自分のデスクに帰っていく。  書類に目を落とし、並ぶ字面を眺めるが、思い起こされるのは楓の強く真っ直ぐな眼だった。  己の進む道を見詰め、困難に直面しても逃げたりしないのだろう。  そんな彼の眼を、順一朗は羨ましく思った。 (…また、会えたらいいのに)  自分でも理解仕切れぬまま、そんなことを考えている。
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