始まりは炎の狼煙

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真昼の太陽が木々を通して光のカーテンを作り出している。 惜しむらくは、その光景を私が見ることが出来ない事だ。 ただ、感じる。それでも嬉しくて、頬を緩めた。 その時、遠くから走って来る音がした。 どんどん近づいて来る。 「亮亜[ロア]か」 足音の響き方で、そう判断する。 理緒は寝そべっていた体を持ち上げた。 彼女の瞳は硬く閉じられている。 盲目の銀狐。 それが一族から蔑まれている原因となっていた。 「理緒お姉様!やっぱりここにいらしたのですね。登って来るのに時間がかかってしまいましたよ」 案の定、亮亜が来た。 ここは、神殿。千夜狐山で、最も険しく高い所にある。 神殿と言っても、建物が在る訳ではなく、頂上にぽっかり空いた空間(空き地)に四方に巨大な岩が聳えている場所なのだ。 普段は、めったに人(狐)が訪れない、聖域だ。 故に理緒はよくこの場所で瞑想をしたり、今見たいに日向ぼっこをしているわけだ。 「それで、何かあったのか?」 「今ザルタ王国の使者が来まして、伝言をお持ちしました」 「ザルタから?何て?」 「簡単に言いますと、現 銀狐に会いたい。近いうちに城に来て欲しい、という内容です」 「近いうちに、か。ふふふ♪今までの銀狐で人間に挨拶しに行ったことがあったかな?」 「……なかったかと」 「そう。先代の銀狐は人間を嫌っていたからね」 「……まさか、行かれるのですか?」 「ああ。行く」 「駄目です!!もしお姉様の命が狙われでもしたら、どうするおつもりですか!」 亮亜はビシッと尾を叩きつけた。 「大丈夫。あなたと兄様を供にするから」 理緒はそれには動じず、三つの尾を揺らした。 「ですがっ!あそこはいつもの歩き慣れた山とは違うのですよっ!?人間の巣窟です!危険過ぎます!」 「だから大丈夫だって。私を誰だと思っている?私は第5代目銀狐の理緒!人間などに負けはしない!」 そう言って、瞬く間に人間の姿に化けた。 本来の姿と同じ銀に輝く癖のない長い髪を、高く結い上げ、指先まで隠すように長い袖は口が大きく広がっている。 そして硬く閉じられた瞳は長い睫毛で縁取られており、腰には横笛を差している。 超のつく美女だ。 「…………分かりました。お供いたします」 亮亜はしぶしぶという風に承諾した。
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