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「なんで俺が、って…まさか…」 そう、そのまさかである。 思わず足元の本とハクを見比べていれば、ふん。と鼻で笑う音が聞こえた。 自分の名前を使い勝手に本を持ち出したのは紛れもないルームメイト。確信した。 「最近やたらすれ違うたびあの図書委員に睨まれると思ってたわ!犯人はお前か!」 自分は悪くない。悪くないのに濡れ衣を着せられ、挙げ句酷く怒られたのだ。 この怒りの矛先は勿論ルームメイトに向かう。 しかしいくら喚いてもそれ以降は相手にされず、結局京の方から引くこととなった。 『今日はこれくらいで許してやる』等と訳の分からない言葉を吐いたものの、実際は後の仕返しが恐ろしくて堪らない。 沈黙から逃避するように、京は放られた本を手にとった。 なにやら表紙にはまがまがしいイラストと共に、『世界の妖怪、不思議な生き物大図鑑』と書かれている。 …怪しい。 怪し過ぎる。 こんなものをハクは読んでいたのか、とその趣味を疑いながらも何とはなしに適当なページを開いた京。 すると長時間同じ箇所を伏せて跡が残っていたのか、無抵抗にあるページが広がった。 裸体の男が背中にコウモリの様な羽根を生やした姿のイラストが描かれている。 そして本文にはこう書かれていた。 ───淫魔(いんま)。 異名として"夢魔(むま)”または”インキュバス”とも呼ぶ。人間の欲を糧として生きる、堕落した天使と言われている。 主に眠る人間の枕元、または夢の中に現れ淫らな行為をする。 一度取り憑いてしまわれると、淫魔が飽きるか、取り憑かれた人間が死ぬまでは絶対に離れない。 また、珍しいケースでは──の姿で現れることも─── ここまで読んで京は興奮していた。 なんて美味しい設定なんだろう、と。 まだ夕方だろうなんだろうがそんなもの関係ない。 京の脳内は背景にピンクが塗りたくられ、薔薇の花が咲き乱れていく。 お分かり頂けただろうか。 京は、俗にいう腐男子というやつだ。
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