背中

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 私はただ、されるがままになっていた。  ぴちゃり、ぴちゃり――湿っぽい音と共に、私の敏感な部分へ彼女の舌が走る。  何度も何度も、私の唇の感触を確かめる様に。人体の内で最も鋭い触覚を持って、彼女は私の唇を繰り返しなぞった。    背中を見ていた時に堪らなく欲しいと思った彼女が、今私と触れ合っている。  口づけとは違う、何だかむずかゆい感触で……温かくて優しくて、溶けてしまいそうな程に甘い香りがした。   「も、もう大丈夫だから……ね、みいな。ほら、血は止まったよ? だから離れて」    若干夢心地になってしまったけれど……思わず彼女を抱きしめて、私の舌を彼女のそれに絡めてしまいそうだったけれど……私は、これくらいならば理性を保っていられる。  背中だけなのだ。私の理性を何処かへ消し去ってしまうのは。  背中さえ見なければ、ちゃんと線引きが出来る。背中さえ見なければ、私は彼女の友達として最善の距離を保っていられる。   「もうっ。心配してくれるのはうれしいけど――恋人同士じゃないんだから、こんな事をするのはやめてね、みいな」    私は彼女へ向けて、言い聞かせる様にゆっくりと言葉をかける。   「私と貴女は友達。それ以上でもそれ以下でもない。  私にとってみいなは、代わりなんて誰にも務まらないくらい大切だけれど……でも決して“そういう関係”じゃない。だから、あんまり変な事しちゃ駄目よ」 「……ごめんね、まどか」 「ううん、良いの。みいなが私を心配してくれた事は、本当に嬉しかったから」    第一、出血したのは自分の責任だ。  自分の奥底にある願望を棚上げした台詞は言えても、『これは、みいなを手篭めにしようとした自分を律するための痛み。みいなは悪くない。全部私が悪いの』とは絶対に言えない。    正直辛かったが――でもそれは、私一人が抱える事。  言う必要なんてどこにもないし、むしろ言わずにおくべき事なのだ。
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