背中

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「……みいな、それはどういう意味なの……?」    私は反射的に顔を上げそうになったが、何とか堪える。  みいなも、多分振り返らないまま、私の問いに答えてくれた。   「私、まどかが欲しいの。背中を見ちゃったら、もう我慢出来なくなるの。  まどかの背中……綺麗。ごめんね、本当に綺麗なの。どうにかなっちゃいそうなくらい綺麗。  触りたい。抱きしめたい。全部私の物にしたい。これまでずっと我慢してきたけど、一度思い始めたらもう駄目。  さっきは直前で振り向いてくれたから、まどかの唇だけで我慢出来たけど……このままだと、私が嫌いになっちゃう様な事をまどかにしちゃいそうなの。  まどか。私の事が本当に好きなら――これ以上、私に背中を向けないで。もう、これ以上は駄目……」    搾り出す様な声音で、彼女は言った。        私は何も言うことが出来なかった。  ただ教室の床を見つめたまま、彼女の言った言葉の意味を理解しようと必死だった。    ……私は、こんなおかしい感情を抱いているのは、自分一人だと思っていた。  私が彼女の背中に対して抱いていた気持ちを、彼女も私の背中に抱いているとは、全く思っていなかったのだ。    だとしたら……。  私が彼女の背中を恐れて彼女の前に立つ度に、彼女は底知れぬ煩悶と戦っていた事になるのだろうか。   「私には分かるよ。私が背中を見せた時、まどかは目を瞑ってる事。それで、気がつけばまどかは、いつでも私の前にいる」    私は、私の知らない内に彼女の気持ちを弄んでいたのだろうか?   「好き、好き、好きなの。でも、それは友達としてじゃなきゃいけないの。  背中を見なければ、友達で満足なの。でもまどかの後姿を見ちゃうと、訳が分からなくなるの。ただ、まどかの事を滅茶苦茶にしたくなるの。  ……まどかもそう思っているんでしょう? だから、私が背中を見せた時は決まって、目を瞑るか、私より前に立とうとした」    彼女は私の事を知っていた。私は彼女の事を知らなかった。
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