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雨の中、傘を差して歩く。
雨足が強くなり、服が少し濡れてしまった。
こんな事までしても、美雪は先生に逢いたくなった。
一目でいい。顔を見るだけならいいだろうと、自分に言い聞かせた。
駅から、いつも通りに本屋へ向かう。
だんだん、本屋が見えてきて胸が苦しくなってきた。
そっと近づき、壁にくっつきながら中を伺う。
丁度、レジに座っている先生が見えた。
くわえ煙草をしながら、ノートパソコンで何やら打っている。
仕事をしている先生も格好いいなぁ…
なんて、うっとりしていると美雪は一瞬で奈落の崖から落とされてしまう。
「ねぇ。由樹!久しぶりに来たけど、相変わらずレアな本ばっかりだね~」
ガラスで影になっている方から、女の声が聞こえ美雪の体がビクッとなった。
先生は美雪には全く気づかず、その声の持ち主に向かって話している。
「そうか?…っていつまで、いるんだ?千代子」
持っていた傘がバサッと道端に落ちた。
雨で傘はたちまち、びしょ濡れになっていく。
それよりも、そんな事よりもどうでもよくなった。
今、先生は大村千代子。つまり元カノと一緒にいる事実に、耳を塞ぎたくなった。目を覆いたくなった。
昔の名残だろうか。
名前で呼び合っている姿を、目の当たりにする。
二人は、仲が戻ったのだろうか?
先生には、もう私なんていらなくなったのだろうか…?
道端で落ちている傘を美雪は眺めていた。
「………」
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