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そりゃ、私は馬鹿だよ。
受験生だってんのに、勉強より先生を選んじゃうぐらい。
馬鹿な私でもわかる。
先生には私なんていらないって事が…
とぼとぼと来た道を歩いていく。
そういえば、傘を持ってきたのに両手に無い事に気づいた。
もう、いいや。
何だって…
美雪は雨が降り続く空を眺めた。
◇◇◇
何かの気配を感じ、藤村は本屋の入り口に目を遣った。
でも、誰もいない。
「あっ!これも読みたかったんだよね~」
浮かれた声に、藤村は気にも留めない。
「あぁ。それにしろ。」
適当に相槌を打つと、千代子は口を尖らせた。
「何よ~!その態度は」
「千代子が仕事について教えてくれって言ってきたのに、俺ばっかしてるじゃねぇか」
ノートパソコンを閉じ、千代子に返す。
「大体な、仕事は家にあまり持ち込むなよ。学校でしろ!」
とか言って、藤村は突き放すような言い方をしたが、生徒の名簿を全部入力した。
「だって~、機械って苦手なんだもん。」
「ほら。その本買うんだろ?早くしろよ」
千代子が手に持っていた本を、藤村が奪いレジへと持っていく。
「まだ、決まってないのに~!…何で、そんなに急いでるの?もしかして、彼女!?」
「……別に」
「ホントに~!?由樹の彼女ってどんな人なの?」
藤村は千代子を煙たそうに追い払った。
さっさと会計を済ませ、千代子を帰そうと出口に追いやる。
「もう~!意地悪っ!今度、教えてよね?」
「はいはい。いつかな」
千代子が傘立てから自分の傘を差し、手を振る。
何かに気づき、藤村に声を掛けた。
「……ねぇ、由樹。これ、お客さんの傘?」
「あ゙!?」
まだ用があるのかといった顔で、藤村は千代子が指差す方へ視線をやった。
そこには、雨でびしょ濡れになった傘が横たわっていた。
可愛らしい傘で、そう、若い子が持ちそうな…
「………」
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